きつね#2


蔵書検索を「狐」で検索。出てきた本を読む。(まさかのシリーズ化(しません))

今回はこれ! 紙の動物園 / ケン・リュウ から、「良い狩りを」。 SF。作者はアメリカ在住だが中国にルーツを持つこともあり、日本人には読みやすいと感じる。「清明節」に死者の魂が帰ってくるとされる(日本の盆のようなものと思われる) というような風習も説明なしでもスッと読める。

感想

魔力が豊富にあったころの妖狐と妖怪退治師の男は機械化の世には ただの娼婦と賃金労働者になりはててしまうが、 新たな魔法を得て復活する。 「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。」が更に進んで「十分に発達した科学技術は、魔法として機能する。」 になってしまった感じ。

全体的にエモい。モチーフはどこかで見たことがあるものが多いのだが、展開に意外性がありすぎる。 あと妖狐自身の「なぜ人の男をたぶらかすのか」に対する解答があざやか。

  1. 人の文化が好きな個体もいる。その際人の姿のほうが便利である
  2. 人に見られぬようにしているが見られることもある。人の男が惚れるのは勝手である。たぶらかしているのではない
  3. 人間の男がいったん妖狐に惚れてしまったら、たとえどんなに離れていても妖狐には相手の男の声が聞こえてしまう

3.の設定が秀逸。この物語の妖狐はわけのわからない化け物ではなく、むしろ人語や人の心を解し、妖怪らしからず誠意があり、生き物としての哀しさもある 存在として描かれる。(まあ主人公は"闇堕ち"してしまったのでどこまでが本当かはわからないが…)

そうは言っても主人公は気の迷いで狐を逃がし、その後狐の言葉を支えになんとか古い魔力が消え去ってしまった工業化の世を生き抜き、 そして「魔力の復活」を感じたのだからお互いに絡み合っていて闇堕ちというのもなんか違う。そうしなくてはお互いに生きられなかったしその中でもがいてなんとか行き着いた先の先に見えた希望。

狐も狐で、魔力の減衰から狐の姿に戻れなくなり、娼婦としてやつれ切った生活を送り、とうとう相手の男(注:当然主人公とは別の人物)の言うがままに体を機械化されてしまい… でもここから古い魔力が新しい形で復活する、というのがなんとも。体の機械化とか意識の外部化というのは新しくないけれど、そこに暖かさと妖狐の美麗さ、アヤシさが加わったのは好印象。

「この世が言われた通りには機能していないという知識をわかちあっているがゆえに惹きつけられざるを得なかった」二人の、とにかく前に進もうという姿がすがすがしい。

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