土日に景色のいいところにいこうと唐突に思い立ち、雨予報の立山に行ってきた。
関東から立山に行こうと思うと長野側から行っても富山側から行っても、室堂に到着する時間はほぼ同じだ。 交通費は長野側から登るほうが安い。また、有名な関電トンネル電気バスやトロリーバスをスムーズに利用でき、黒部ダムも見られるのは長野側だ。 今回は長野側から行くことにした。
東京駅の始発新幹線に乗り、長野駅へ。アルピコ交通の特急バスに乗り黒部立山アルペンルートの始発駅である扇澤駅に向かった。 電車内とバスの中では死んだように眠っていたのであまり覚えていない.....信濃大町からの登りに猿がいてバスが徐行運転をしていたのは妙にはっきりと覚えている。 アルピコ交通のホームページだと電気バスとの接続が不明で扇澤で待ちぼうけを食わされないか心配だったが、 もちろんそんなことはなく、スムーズな乗り換えであった。(その分駅でぶらつく時間はあまりなかったので、旧トロリーバスの保存車両を見たりといったことはしなかった。)
登り坂、スノーシェッドを通り、あっという間にトンネルに入ってしまった。
トンネルは一車線分しかなく、圧迫感がある。ここがもとは観光道路などではなく工事用のものだったことを 思い出す。路面も破砕帯以降は水で濡れていて、今も出水し続けていることがうかがえた。
中間地点あたりで道は幅広になり対向のバスとすれ違う。ぼんやりと反対車線を見ていたが、通票のようなものを窓から受け渡したあと ホーンを鳴らし、発車した。あれは何だったのか? ダムに近づくにつれ車内では案内が。バス降りて右手が展望台、左はショートカットでダム天端に出るらしい。 時間はいくらでもあるので展望台に行ってみよう。
車内案内の通り右手の急な登り階段を行く。
黒部ダム駅の出口階段トンネルの途中には湧き水の展示があり、改めて出水が多いのだなあと思った。 (大丈夫なのか?と思ったが多分展示のためにパイプで引いているのだろう。)
展望台からは堤体と、今日これから行く山々を一望できた。 まだ雪がだいぶ残っているのが印象的だ。また予報では曇りまたは雨だったが、まだ奇跡的に晴れ間がのぞいていた。 晴れの日に放水していると虹がかかるというが、この日は観光放水はしていなかった。
湖面はきれいだけれども、ダムにたたえられた波一つない水には工業製品のような整然とした感じもした。 展望台のそばには慰霊碑や工事の展示もある。今でこそなんの苦労もなく通り抜けができてしまうが、 交通では上書きできない、土木とそこに挑んだ人たちのにおいを感じられる場所だ。
打って変わって今度はケーブルカーだ。 駅の構造やケーブルカーの車体、配色とかにも少し懐かしい感じがする。
黒部平からはだいぶ近づいた山を望む。 少し肌寒いが空気は澄んでいる。 景色を少し見て、深呼吸をすると、もう次の便が発車するという。ややせわしないのが少し残念だ。
ロープーウェイ。乗ったのは何年ぶりだろうか。
かなり混雑していたので車内写真はなし。雪がまぶしい。 写真はないが、山肌にツキノワグマがいた。
室堂までは日本で唯一になってしまったトロリーバスでいく。 ずっと地中で雰囲気は関電電気バスに似ているが、こちらのほうが少し幅は広い気がした。 あとトンネル内の浸水もなし。路面は乾いているように見えた。
室堂駅はホテル立山と建物を共有しているので今までの駅の中では一番立派だ。 室堂駅でホテル立山のレストランの昼食を食べた。途中下車して山歩きするのにも良い場所だ。
歩いて数分の場所にある。6月なのに、雪が残って壁になっている場所だ。
雪の壁は自重で固く締まっていて、倒壊するとかいうことはないらしい。 雪の高さ自体はすごいけれども、アスファルトはきれいに露出しているのでなんだか不思議だ。
少し山歩きをしようと思い、祓堂方面に歩いてみた。 観光案内等では初心者向けで場合によっては日帰りでもいけるというような案内が載っているが、完全に「時期による」ということを 見せつけられた。雪で何もかも覆われているのは想定していなかった。
1kmほど歩いてみて、靴擦れで足から流血しはじめたので引き返した。 確かに、頂までいくのは無理でもある程度のところまではいけると思うが、既に一歩ごとに足が痛むという状態になってきていたので 断念。天気がよく見晴らしが利き、相応の靴をはいていて、時間と体力が十分ならこの時期でもどうにかなっただろうと思う。いつか再訪したい。
自然観察センターで観察ツアーをやっているので申し込んだが、この時期は少ないのかなんと二人しか参加者がいなかった。 ミクリガ池方面の石畳の道は除雪がかなり進んでいるので歩ける。 池はまだ半分以上凍っていたが、水は深い青色で、氷も青い。
池周辺にはマツの低木が茂っていて、雷鳥などが好むエサになるらしい。 一人で歩くと遠景に注目がいきがちだが、下のほうにも注意を向けると良いと言われたので見てみると足元には小さな花が咲いていた。 高山の春はこれからだそうで、雪が解けると花畑が出現するという。
ミクリガ池から少し行くと、みくりが池温泉という宿がある。それも少し過ぎると、閻魔台から地獄を眺められる。 今は有毒ガスが多くなったため立入りはできないそうで残念だ。 ジェットのようなすごい音をあげて水蒸気とガスが噴出していた。
晴れ間がのぞいた...と思うと急に視程が悪くなったりと山の午後は天気が安定しなかった。 曇ったあと一瞬のぞく晴れ間は美しく、雲一つない晴れよりもむしろ刻一刻表情が変わるほうが好きかもしれない。
観察ツアー終了時点で16時前後。 もともと室堂に1泊予定だったので、宿に向かう。
宿は「らいちょう温泉 雷鳥荘」を取ってあった。 室堂から歩いて35分くらいの、近いとは言えない距離感の山小屋だ。
この写真の面白いポイントは「雷鳥荘 ➜」と書いてあるのに左手に写っているのが目的の建屋であるところ。 アップダウンがある迂回の多い道だが、植生保護の観点から直登はできない。
16時ごろ宿着。 普通なら宿泊した宿については特に書くことはないが、ここはかなり気に入ったので書く。 まず御主人が親切だった。景色も良く、玄関の目の前の談話室からは地獄谷が一望できる。この談話室には暖炉があるのも懐かしい感じがして良い。 部屋は山小屋にしてはかなり広く、清潔で、コンセントも使える。 夕飯も下手な民宿より品数が多い。洗面所トイレは共用だが、最近リニューアルしたようでこの部分は近代的な設備だった。
地獄谷に近いので、風呂は温泉が引いてある。 ほんのりと硫黄の匂いのする白濁湯で、試しに飲泉してみると、酸味があるがさっぱりとした味だった。(飲泉は積極的におすすめはしないが....) 硫黄の匂いが苦手な人や温泉成分を流したいという人のためか、沸かし湯の浴槽もあり気が利いている。
風呂を上がり20時頃になると山の端の最後の光が失われて完全に夜になった。 しばらく外を見てぼんやりしていたが、疲れに引き込まれ20時半には寝ていた。
夜から天気は下り坂で、私の願いもむなしく朝には本降りになっていた。 朝食後に宿を発つタイミングをはかっていたが一向にやむ気配はない。 合羽は上着しか持ってきていなかった(山を甘く見るな)ので下半身はウインドブレーカーを腰に巻きしのいだ。
雨の中宿を出ると、すぐそばにたたずむ雷鳥が。
野生個体は初めて見たがハトよりも大きく縄張りを守るようにたたずむ姿は凛々しい。 「雷鳥は悪天候の方が見やすい」というのはそうなのかもしれない。 雨に打たれながら室堂駅着。富山側から帰路に就いた。
行こうかな、と思ったのが直前だったのでロクに準備をしていなかったが、 山は怖いところだ。特に靴や合羽といった基本的な持ち物の不備はかなり痛かった。
一方で、立山の初夏は美しく、思わず深呼吸したくなる。(高山で酸素が薄いから深呼吸したくなるのかもしれないが...) ハイシーズンではなくあえてこの時期に行くという選択も有るか無いかで言われれば大いにありだと思った。 高山の燃えるような秋の色も好きなので、次は時期を変えて再訪したい。 実は帰りにもう一か所訪れている。そこについては機会と気力があれば書きたい。