読了: 地球最後の
オイルショック


地球最後のオイルショック という本を読んだ。 当初この記事には要約的な内容を入れることを考えていたが、本の時点で簡潔でわかりやすいため 内容については必要以上に書かないことにする。図書館で借りて読んでほしい。 「成長の限界」の系譜だと思うとわかりやすいが、本書は「原油」にフォーカスする。 技術者として、あるいは大袈裟だが工業文明に生きる人間として、今何をなすべきなのか。考えさせる本であった。

◇石油ピークという概念について

可採年数という用語はよくなんの説明もなく持ち出されることが多いが、よく考えるとかなり大雑把な概念ではないか。 例えば可採年数40年です、と言われても41年後に枯渇している訳ではないだろう。 より重要なのは需要が供給を上回る点、あるいはこれまで増加の一途であった供給が減少に転じる点ではないかというのはもっともだと思う。 では生産量が減少し始めるのはいつなのかといえば埋蔵量を半分掘り出した時点がピークであるという。 これをハバートのピークオイル(仮説)と言う。

ハバートの説は究極埋蔵量を仮定する方法、個々の油田の生産高を使ったモデル、発見量からその後の生産を予想するモデルがある。 どの方法で予測してもピークはおおよそ一致するとされている。

◇予想は当たったか

日本語版が出版されたのは2008年。そこから石油の供給が滞り世界的危機に陥ったか?といえば答えはNoだろう。 また、米国の原油生産ピークはのちに増産に転じた。 だからといってこの本の予想が外れたと考えるのは早い。 2009年以降の原油生産の伸びはほとんどが米国のシェールオイルによるものだからだ。 在来型石油は既に、ピークアウトしてしまっていることが見て取れる。

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世界の原油生産動向

グラフは資源エネルギー庁の 令和2年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2021)より作成した。

さらに驚くべきなのは2019年において 米国がサウジアラビアを抜いて原油生産量が世界最大であるという点である。 したがって、石油ピークを語る上でシェールオイルを見過ごす訳にはいかない。

◇シェールの現状

2019年までは順調に生産量を増加させてきたシェールオイルだが、2020年には 20社以上が倒産したという。 また、原油価格の高騰にもかかわらず 良好な油井が減少し生産が頭打ち であるというのも気がかりである。

まもなくピークを迎えてしまうのではないか、あるいはすでに越してしまったのではないかという疑念が浮かぶ。 ここ10年ほどの原油生産の伸びを実現したのはシェールオイルのおかげなのだから、それが減産していったら影響は大きいはずだと思う。

◇IEAの警告・オイルメジャーの動向

本書の中でオイルメジャー関係者は既に新規油田の発見に期待出来ないと気づいているという内容が出てくる。 2008年当初はそれでも新規の大規模油田発見が難しいという見解を公にすることはできなかっただろう。 (もしそれを公にしてしまったら株主から詰め寄られ説明の場をもたねばならないだろう。書籍の中でも述べられている。)

しかし時代の潮流だろうか。 シェルは石油「19年がピーク」と発表し、 「新たな領域での資源探査は25年までに終え、その後は手掛けない」という。 脱炭素のためだというが果たしてそうなのか。現実問題として探査しても見つからないからではないか。 本書を読んだ後ではそう疑わざるを得ない。 また、BPも19年が石油「需要」ピークだった と発表している。需要ピークはすなわち供給ピークなのではなかろうか。

さらにショッキングなのはIEAの"World Energy Outlook 2020"である。 そこには 投資をしなければ2025年には石油供給量は半減する というグラフがある。

コロナによる収益環境悪化とESGs意識により石油開発上流への投資は減少している。 最悪の不足に向けて突き進んではいないかと不安になる。

◇環境と、石油ピーク

本書中でも指摘されていることだが環境・気候問題と石油ピーク対策は共通点が多い。 しかしタイムリミットは石油ピークのほうが近いのではなかろうか。 だが現実として石油ピークの影響は膨大過ぎて何から手を付けてよいかわからない。 またそれを口にするだけで油価が乱高下して経済が破壊されないとも限らない。 したがって環境問題のほうが白黒つけやすいので議論しやすいということになってしまう。

米国が対外債務によってモノを買う。輸出国もそれによって潤うという構造。 エネルギー効率が改善してもその分多く使用してしまう人間の性質。 だが根本的な解決は原油使用量を減らしていくしかないとわかっていたとしても自分から豊かさを手放したい人間がどこにいるだろうか。 最終的に人間が自分から決断しなくても、自然が石油ピークという形で運命を決定づけてしまうのではないか。

◇影響が大きいものたち

エネルギー

化石燃料は「使い切り」なのだから化石燃料が使用可能なうちに移行先を確立しておくのが賢明であったのではないか。 移行先として化石燃料を代替しうるエネルギーを発生しうるとなると再生可能エネルギーだけでは足りず、必然的に核エネルギーに頼ることになるのではないか。 ただし海水の重水素から無尽蔵のエネルギーを生み出しうるとされている核融合は実用化されておらず、 高速増殖炉による核燃料リサイクルは頓挫している。通常の原発ではやはり資源の枯渇が問題となるだろう。 世論の硬さもほぐれそうにない。(個人的には核テクノロジーが最初に兵器として使われたのが人類の未来を決定づけてしまった、と後世に言われないことを願う。後世に人類が残っていればだが)

現実的な解としては水力や風力、太陽光といった再生可能エネルギーを可能な限り増やしつつ旧来のエネルギー(石炭、LNGなど)の利用を増やさざるをえないのではないか。脱炭素とは逆行するが、エネルギー不足とどちらを取るか。 モビリティの大半は電気自動車に置き換え可能かもしれないが、ディーゼル車等の特殊な用途の電気自動車の開発難度は高いのではないか。

化学工業の炭素・水素源として

例えば、ハーバーボッシュ法で用いられる水素はほとんど化石資源由来で水電解等の方法で作られたものを使う例はほとんどない。 肥料、農業にも多大な影響が及ぶだろうと思われる。 やはり当面は石油以外の化石資源の活用がキーになるのではないかと思うがその先はどうなるのか。

◇最近の出来事に思うこと

供給制約という文字をよく見る。(例えば日経を検索してみてほしい。) 何の供給制約なのか。人材なのか金属なのかエネルギーなのか? 本書が言うところのピークオイルの影響にはインフレ、経済の長期停滞、金利の上昇など思い当たるところが多い。 破壊的な結果を眼にすることがないように祈るばかりだ。

大学学部時代に周囲は科学・技術に興味がある人間、科学が人を幸せにするという信念を持った人が多かった。 そういった人たちとこういった話をしなかったのは今更ながらとても悔やまれる。

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