書評


浅田次郎 編のアンソロジー「見上げれば星は天に満ちて」より、 中島敦の「狐憑」。青空文庫でも読める。

最初に言っておくと、妙な方面で期待をしていたので非常に落胆した。
この作品はおきつねはおろか狐憑とも全く関係がない!!! 山月記の中島敦である。もしかすると、もしかするのではないか?と思ったが裏切られた思いだ。

内容も not for me なものであった。
血生臭い話に始まり、血みどろの結末で終わるが、主題は物語の構造や創作者の運命といった観念的な部分にある。 観念的な話題に身体性を持たせるために無理矢理に血の要素が持ち込まれたような気がしてしまい、そこには必然性は薄いように思われてしまった。 必然性がないのに凄惨な話は私は好きではない。

またこの話題の中で暗黙の了解となっている「物語は自然に題を取ったプリミティブなものから人間社会・関係性に題を取ったものにとってかわられる」という意見にも首を傾げざるをえない。 現代でも神話や民話・世間話といった類のものは形を変えて再創造されるものである。 「殺生石が割れて九尾の狐は現代に蘇った」といった具合に。 (古い物語が新しい時代の中で復活する、というモチーフはまさにケンリュウの短編小説「良い狩りを」の一つの主題であった。) あるいは狐をめぐる世間話を読んでみるとよい。 最近になっても素朴な物語は再生産され続けているのである。 それこそ人間が自然と折り合いをつけて生活していく限り永遠に紡がれ続けるのではないか。

.......というわけで、狐に題を取った(中身にもちゃんと出てくる)小説があったら、私に知らせてほしい。

もどる


かもめ - Make / Walk / Others / About