核融合エネルギー純増のニュースに思うこと


ニュースの感想

アメリカエネルギー省から「実験で核融合を起こすために投入した分を上回るエネルギーを取り出せた」との発表があった。 科学史に残る大きな一歩であるのは間違いない。しかし私はかなり悲観的だ。 今後人類がエネルギー危機に直面したとしても、核融合は何らかの解決として間に合うかはかなり怪しいのではないか。

エネルギー純増という成果と商用発電の間には大きな差がある。 投入したエネルギーのというのはレーザー核融合の場合には光出力に対してであろうから、レーザーの起動に必要な電力はより大きいと思われる。 また仮にそれ以上の出力を既に得られていても商用化の場合には設備の寿命までに発電できる電力量というのも問題になってくるはずだ。 「とうとう核融合が実現間近!」というような論調は過度な期待を煽ることになるので危険だと思う。

そもそも核融合の研究が開始してからすでに80年である。もう80年というべきか。或いはまだ80年か。 当初の期待を果たしているとは言い難い状況だろうと思う。ここから一気に加速すると信じられる理由は少ない。 それでも、石油の生産にピークが見えた後もエネルギー多消費型の文明を維持したいのなら核融合以外に手はないだろうと思うので淡い期待はしていない訳ではない。 もっとも今後ミラクルテクノロジーが出てきて何もかも杞憂だったたとならないとも限らないが。

エネルギーの危機が表面化するとしたら

エネルギーの危機が表面化するとしたら、米国から始まるであろうと私は考えている。 世界最大の産油国は米国であるというのは過去に述べた。しかしその米国が生産を依存しているのは在来型油田ではなく、 シェールオイルである。シェールオイルの油井は一つの油井の寿命が短い。そのため安定的な操業のためには掘削したが生産開始していない油井(これをdrilled but uncompleted wells;DUCと呼ぶ)を在庫として積み上げておく必要がある。

気がかりなのその在庫であるDUC油井が減少していることだ。

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DUCの推移

データはEIAの 専用ページ からみられる。 2020年6月から一貫して減り続けていることがわかる。掘削したが実際には生産できないという油井も中にはあるだろうから、 実際生産余剰能力としてどの程度あるのかは不明だ。 このところ米国の原油生産量は上昇を続けているが、新規開発ではなく在庫を切り崩して生産量を上げている訳なので ある時に原油生産量が突如激減するというのはありうる。そうなった時にどうなるか恐ろしい。

日本で石油の生産ピークがはっきりと認識されるのはいつのことだろうか。 2022年のエネルギー白書はすでに発行済みだが、その統計は2020年のものが用いられている。すると

となり、原油生産が減少してもはっきりとデータとして現れるのは2025年以降となるかもしれない。 ただ本当に資源ピークを越えた場合、現実の方が先に影響が現れるだろう。 その時、工業をベースとした産業と、それに依存した社会は生き残れるのか。 自分はどうすべきなのか。自分が生きている間には必ず目にするであろう事態なので考えている。

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