読書記: 会津の怪談


中村彰彦氏による「会津の怪談」を読み、面白かったのでその中から二編を紹介する。

「亡霊お花」

最初の一編。歴史小説と怪談は相性どうなのか?と思いながら読み始めたが、引き込まれた。 亡霊譚が会津騒動のバックストーリーにつながる流れがあまりにも話としてまとまりすぎている&地名等が あまりにも会津specific(若松城は当たり前として、たとえば、神指、塔寺といった地名が出てきた時に会津盆地の中でどのあたりか分かりますか?) でありながら破綻がないので、底本があるのでは?と思ったがやはりそのようだ。 しかしながら全体的にセクシュアルかつ生々しい描写が多く、古風な物語という印象は全くなかった。

会津騒動やその前後についてもっと知りたくなる歴史小説として、そしてその前日譚の男女の話として良作だった・

「恋の重荷 白河栄華の夢」

話の筋は「狐退治に出向いた男が当地で偶然出会った女子を狐だと断じて懲らしめようとするが、実際には違った。 男は訳あってその女子を白河まで送り、なりゆきで夫婦となり、子をもうけるが子は夭折。残された男は世の無常を悟り出家する」
↑これがすべて狐の見せた夢だった...という夢オチ。 単に「狐退治に向かった男が狐に返り討ちに遭って俸給を失った、滑稽な話」という読み方もできるがそれにとどまらない部分がある。

狐が実は幻影を見せた以外には何もしていないというのもポイントではないか。 狐が人間を出家させる類話の中には髪を剃ってしまうなどの威力行動(?)が見られるものもあるけれどこの物語にはそういったものは何もない。 狐の意図は何だったのだろうか?と考えると想像が膨らむ。 また男が「もしかして狐だったのか...」と思い当たる理由にフフッとなる。

あるいは「男が直観した世の無常は真だったのか否か」...といった問いも可能ではないか。 (幻影の中での推論なので間違いだ...とは一概には言えないのは明らかだ。) 男が二度、廃人になってしまった(?)のにも注目したい。一度目は夢の中で子と妻を喪った場面。そして二度目は夢だと知って呆然としてしまった(そして禄を失った)場面。

作者解説では雨月物語が引かれているが、道徳観とか説教的要素が全くないので様々な読み方ができるのが良い作品だと感じた。

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