たまにおきつねにまつわる小説などを読んで紹介している。 今回は「澁澤龍彦綺譚集II」より「狐媚記」を紹介する。 怪談系おきつねストーリー。
平凡社のアンソロジー(今回とは別の本である)の紹介文は、
星丸はある夜、手込めにされかかる少女を助ける。二人の間にはたちまち恋の炎が燃え上がるが、 少女は、かつて狐の子として生まれ、間引きされた妹だった──暗黒メルヘンの最高傑作。
として紹介されているが、読後に見ると短絡的でかなり首をかしげざるを得ない紹介文だ。 本文で星丸はとんでもないDV男で手込めにしたのは星丸自身で自作自演であったことがほのめかされる。 また「間引きされた妹」かどうかも判然としない。狐の姿で生まれた赤子はすでに殺されたはずで、では彼女は一体…となるのだが。
ただ、上の紹介文もわからないではない。 この物語ははっきりしない部分が多くそれが怪異の奇妙さを際立たせていると感じるが、 それは短文にすると意味不明になってしまう。 北の方が狐の子を産んだのは左少将が呪ったからなのか? 北の方の子は本当に殺されたのか? なぜ狐たちは北の方の自死を煽ったか?にもかかわらずなぜ北の方は幻影と親しんでいったのか? 管狐とノーマル狐とは同一の存在か否か。 なぜ北の方は狐の子を意図せず殺してしまった幻影を見たのか。 北の方と狐の子の間に愛着はあったのか、なかったのか。
重要な問いにはどれもかなり疑問が残る。 極端な話、衰弱した北の方の頭が作り出した妄想だった可能性も否定はできないと思う。 (最初、熱病に冒されたときに見る悪夢のような小説だな…と思った。)
因果という意味では因果応報的な価値観でもまったくはかることができず困惑する。 最初に北の方が狐の子を産む点からして因果律崩壊という感がある。 左少将の狐玉を星丸が破損し、狐玉はうわ言の如く左少将の没落を予言するものの、 左少将は最終的に「あたかも狐が落ちたように、ずいぶん気が楽になった」状態になり、別に死んだりはしない。 星丸は狐に精を吸われて死ぬが狐玉の祟りというようなわけでもなく、解釈が難しい。 結局狐玉が人間誰にとっても害をなす存在で、それを手放した左少将は助かったということなのだろうか?
するとラストの次の狐玉ができつつあるシーンも次なる不気味な物語を予感させる終わり方ではある。 常識やルールを無視した怪異が一番恐ろしい…ということか。